情緒が過ぎる

演劇・映画・文学

卒論を書き終え絶望、寝て復活(1)題材を決める

ついに先日卒業論文を提出した。
最後までギリギリすぎて、本当に卒業できないかと思った。

誰の役にも立たなそうだが、提出までの流れをまとめておこうと思う。
どうか反面教師にして、ここまでサボるとやばいんだぞというラインを押さえておいて欲しい。

ちなみに提出日は1月第1週だった。これを念頭においてヤバさを体感していただきたい。

メジャーかマイナーか

卒業論文で扱う作品を何にするかということはだいぶ前から考えてはいた。
どちらも大学で出会った妙に惹かれる詩で、同じだけ魅力的だったので、ずいぶん悩んだ。
同じ詩ではあるが、ずいぶん位置づけの異なる詩だったので、先生からもよく考えるようにと言われていた。

一つは、いわば伝統的な詩で、これまでも数多くの研究がなされてきたもの。
もう一つは、20世紀の詩で、有名だが、特に日本ではそれほど研究が盛んでないもの。

簡単にまとめてしまえば、メジャーを選ぶか、マイナーを選ぶかという選択である。

先行研究が多い作品を扱うべきか、研究されてこなかった作品を扱うべきかという問いに対しては、どちらの研究も一長一短で、人によって意見が異なるようだ。
結局自分がやりたい方を選ぶべきという助言を得て、また考え込む。

「私にはまだ早い」

一番の悩みどころだったのは、後者の、つまり現代の詩が、私にとってあまりにアクチュアルであるが故に、思想に引っ張られずに、詩としてきちんと扱うことができるか不安が残るという点だった。

文学部の卒業論文なのだから、少なくとも詩は詩として扱うべきだし、テクスト内部の読解を重視するのが研究室の方針なの(だと私は思っている)から、外在的な読みに終始してしまわないかということを懸念していた。

そして、ひとまず前者の19世紀の詩を選ぶことにした。
もちろん、こっちの方が簡単そうだからとかそういう理由ではなく、これまで研究されてきたもののほうが、詩を詩として扱う訓練には向いているように思われたからだった。

6月あたりに、卒業論文の説明会があり、そこで研究題材を問われた。

「(後者)は私にはまだ早いと思って…」というようなことを言って流そうとしたら、「やりたい方でいいんだ(本当は後者を選びたいんでしょう?)」と先生に説得された。
どうやら「(能力的に)私にはまだ早いと思って…」、という意味に捉えられてしまったようだ。

確かにそう意味で捉えると、先生が不安に思うのも仕方がない。

しかし、言い訳をする間もなく説明会自体が終わってしまったので、またもや決め切れずに悩みだけが残った。

「精神面においても「まだ早い」ことを気にせず前進してみるべきなのか?」「ある程度研究が進んでいる方が「詩として扱う」姿勢からずれにくいのではないか?」

完璧な卒業論文

悩みに悩み、結局そのまま夏を迎えた。

ゆるゆると前者に関連する研究書を読み進めながら過ごしていると、縁あって読書会に参加させていただくことになった。
なんと後者を専門にする博士の方とともに、卒論の題材候補を読み進められることになったのだ。

こんなに幸運で良いのかと思ったが、決め切れていないにしても、人生のどこかで必ず真剣に考えてみたいと思っていた作品だったので、これを逃すわけにはいかないとすぐに参加希望の連絡をした。

夏休みの間、背景や他の作品との関連について解説を加えていただきながら、和訳片手に読み進めるうちに、全く理解不能だと思っていた詩から少しずつ引っかかる言葉が浮かび上がってきた。

とにかく読み切るという経験の大切さをこれほどまでに感じたことはなかった。

同時に、アクチュアルな詩であるということにはやはり変わりなく、詩の背景にある歴史はあまりに痛ましいものであったし、現在まで引き継がれる不平等もあまりにどうしようもないものに思われた。

読書会を終える前には決めようと決意した矢先、ふと思った。

「上手くいきそうにない作品を選ぶことができるのは、むしろ卒業論文の方なのでは?」

なぜそれに気づかなかったのか、今となっては理解できないが、どうも立派な卒業論文を書き上げたいという思いに囚われすぎていたようだ。

一度そういう考えに至ると、すんなりと心は決まり、読書会が終わる頃にようやく、卒業論文の題材を決定するに至った。

 

 

お気づきだろうか。

題材を最終決定したのは夏の終わりである。
つまり、執筆にかけられる時間はたったの3ヶ月である。

長々と悩んで一仕事終えたかのような書き振りだが、まだ題材を決めただけである。テーマすら決まっていない。

ついでに言えば、決め切れないあまり、どちらの研究書も買い集める羽目になり、普段から悲しげな財布がこの時点ですでに咽び泣いていた。

前途洋々とは中々いかないのが人生である。

次回に続く。