情緒が過ぎる

演劇・映画・文学

『てにあまる』@東京芸術劇場/プレイハウス

公演情報

Sky presents『てにあまる』
2020/12/19(土)~2021/1/9(土)
脚本:松井周
演出:柄本明
出演:藤原竜也高杉真宙佐久間由衣柄本明

horipro-stage.jp

独断と偏見あふれるザックリまとめ

一人暮らしの老人の家を訪ねてきた一人の男。 過去に向き合うために同居生活を始める二人。別居中の妻と部下の会話が次第に男のヴェールを剥いでいく。断ち切ることのできない狂気。理性。本能。抑制。人間。

観劇レポート

プレイハウスと不釣り合いなほど小さい部屋。舞台の余白がいい。

笛を吹く老人。音はあんまり鳴らない。携帯の呼び出し音がなり、布団に潜り込む老人。布団に入る体の動きが妙にリアル。
いや、人間がやってるんだから紛れもなくリアルなんだけど、ただの動作じゃなくて役の印象がぶつかりにくるみたいなフィクションのリアル。

ドアの外から覗く若い男。二人のやりとりが小気味いい。目だけ見えてるのがまあまあ怖い。なんの脈絡もなくガツンと没入させられるのが演劇の好きなところ。

老人を家に呼び寄せる男。ちょっと不穏なセリフを混ぜ込みつつ、ユーモラス。男が帰った後の柄本明さんの一挙手一投足が妙なリアルさ。

切り替わって男の家。
ここの切り替えがすごく好き。小さな部屋ごと横に流れて、ようやくプレイハウス並みの家がはまり込む。

男の部下がやってきて仕事の説明。あまりうまくいってなさそうだし、部下もあまりできそうには見えない。余談ですが、声を枯らさないって思っている以上に大変なんだろうなとお芝居を見にいくたびに思う。

続いて妻。部下との関係、ありがちだけどオチのつけ方がいちいち面白い。誇張するユーモア。誇張の間というか、リズムと勢いがキラリ。

次第に明らかになる男と部下、部下と妻、男と老人の関係と男の姿。
会話によって人物像を象っていく仕方が決まりすぎてなくて良い。

男と老人の掛け合いは「お見事!!!」

藤原竜也さんはやはり舞台の人だなあと思う。パンフレットで、柄本さんが藤原さんの「怒り」を褒めていたけれど、それを実感できるお芝居だった。
怒りはエネルギーだよなあ。人間だよなあ。

最後のシーンで全体が締まる感じがして良い。全てが精巧にラストに繋がっていっている印象。アプリ、チャイム、細かい設定が生きてるみたい。

こういう具体の中の余白がすごくお芝居らしくて好き。行きすぎず固めすぎず。

映像的なイメージによる余白とはまた違って、物とか言葉とかリアルの中で余白を作るって舞台の上でしかできないことだよなあと今更ながら。

 リアルな物語に見えていたものが一気にぐらつく感じ。どこまでがリアルで、どこからがフィクションなのか?最初からフィクションなのに。

兎にも角にも、柄本明さんと藤原竜也さんのお芝居を生で目撃したという感動が一番。
静かな圧と激しい突。
特に柄本さんの体が醸し出す怪気が体感できてよかった。
できればもう一回くらい行きたい。

つぶやき

以前半沢直樹の特番で、

「演技をするって不自然なことなんですよ。自然じゃないとか言われたって困っちゃいますよね」

とおっしゃっていたのに頭を打たれたような気持ちになって、
それ以来すっかり柄本さんのファンなのですが、今回のパンフレットの対談も素敵でした。久々に買ってみてよかった。

濃い経験から生まれる言葉が本当に好きです。言葉が肉を持つみたいで。